建設業の原価管理とは?失敗しない5つのステップ
「工事は忙しいのに、なぜか手元にお金が残らない」——建設業の原価管理が整わないまま複数の工事を抱えている工務店の経営者や、経理を一人で担っている担当者から、そんな声をよく聞きます。とくに現場を掛け持ちするようになると、どの工事でいくら儲かっているのかが完成するまでわからず、気づいたときには赤字工事だった、というケースも起こりがちです。
建設業の原価管理は、こうした「どんぶり勘定」から抜け出し、工事ごとの利益を早い段階で把握するための土台になります。とくに社員数十名規模の工務店では、経理を経営者自身や少人数の担当者が兼務していることが多く、原価管理の仕組みが整っていないまま複数現場を回している会社も少なくありません。この記事では、原価管理の基本的な仕組みから、建設業特有の難しさ、そして今日から着手できる具体的な手順までを解説します。
この記事でわかること
- 建設業の原価管理の基本的な仕組みと4つの原価要素がわかる
- 原価管理が「難しい」と言われる理由を理解できる
- 原価管理を怠った場合の経営リスクを把握できる
- 今日から着手できる原価管理の5つのステップが身につく
1. 建設業の原価管理とは?4つの原価要素と重要性が高まる背景

原価管理とは(定義と目的)
建設業における原価管理とは、工事ごとに発生する材料費・労務費・外注費・経費を工事の進捗に合わせて把握し、目標とする利益を確保できるようコントロールする一連の取り組みです。単なる集計作業ではなく、見積もり段階で立てた予算と実際にかかった費用のズレを早期に発見し、是正することが原価管理の本質的な目的です。
原価を構成する4つの費目(材料費・労務費・外注費・経費)
建設業の工事原価は、一般的な製造業とは異なり、次の4つの費目で構成されます。
工事原価を構成する4つの費目
費目 | 内容 |
|---|---|
材料費 | 資材・部材の購入費用 |
労務費 | 自社の職人・作業員に支払う賃金 |
外注費 | 下請業者や一人親方への業務委託費用 |
経費 | 現場管理費・機械経費・仮設費など上記以外の費用 |
建設業では、下請けや一人親方への支払いが「外注費」として独立して扱われる点が、他業種の原価管理と大きく異なります。ただし、実態が自社の作業員への賃金支払いに近い「労務外注費」は、外注費ではなく労務費として区分するのが一般的です。
原価管理の重要性が高まっている背景(資材・労務費の高騰)
原価管理の重要性は、資材価格と労務費の高騰によって年々高まっています。林野庁の「令和3年度森林・林業白書」によれば、2021年12月の輸入集成材の平均単価は前年同月比114%増の107,247円/m³、輸入製材品も同106%増の80,149円/m³となるなど、住宅の骨組みに使う木材価格が大幅に上昇しました(出典:林野庁)。
鉄鋼製品も2021年から2022年にかけて30〜50%の価格上昇が見られ、2022年10月には為替が1ドル150円を突破するなど約32年ぶりの円安水準となったことも、資材の仕入れコストを押し上げています(出典:建デポマガジン)。
令和8年度の公共工事設計労務単価は、全国全職種加重平均で25,834円、前年度比4.5%(全国全職種単純平均)の上昇となり、14年連続の引き上げとなりました(出典:現場メディア)。
- 見積もり時点の想定と、発注時点の実勢価格がずれやすくなる
- 工期が延びるほど、労務費の上振れが利益を圧迫しやすくなる
- 「多少のズレは仕方ない」という感覚のままだと、ズレの累積に気づけない
見積もりを立てて終わりにするのではなく、工事の進行中に原価を追い続ける仕組みが欠かせなくなっています。
2. 建設業の原価管理が「難しい」といわれる4つの理由

「原価管理をやったほうがいいのはわかっているけれど、実際にやろうとすると手が止まる」——そんな声を耳にすることは少なくありません。その背景には、建設業特有の事情があります。
原価管理が難しいとされる4つの理由
- 理由①:建設業特有のわかりにくい勘定科目
- 理由②:現場をまたぐ外注費の煩雑な振り分け
- 理由③:あいまいになりがちな共通費の割り振り基準
- 理由④:時間と手間がかかる手作業中心の集計
理由①|建設業特有のわかりにくい勘定科目
建設業の会計では、完成していない工事にかかった費用と、完成して引き渡した工事の原価を区分して管理します。一般的な会計になじみのある経営者ほど、この独特な区分に戸惑いやすいのが実情です。
- 未成工事支出金:完成していない工事にかかった費用
- 完成工事原価:完成して引き渡した工事の原価
理由②|現場をまたぐ外注費の煩雑な振り分け
下請業者や一人親方への支払いは、どの現場のどの工程に対するものかを一件ずつひも付けなければ、工事ごとの正確な原価が見えません。複数現場を同時に抱えるほど、この作業量は膨らみます。
理由③|あいまいになりがちな共通費の割り振り基準
複数の現場にまたがる「共通費」は、どの現場にどれだけ割り振るかの基準を決めておかないと、工事ごとの損益が実態とずれてしまいます。
- 現場事務所の家賃・水道光熱費
- 重機・仮設資材のリース料
- 複数現場を巡回する現場監督の人件費
理由④|時間と手間がかかる手作業中心の集計
Excelや紙の伝票をもとに手作業で集計している工務店では、月末に数十枚の伝票を一件ずつ転記するだけで多くの時間を取られます。経理担当者が一人しかいない工務店ほど、この負担が経営者自身の残業として跳ね返ってきます。
3. 原価管理を行うメリットと、放置した場合のリスク

原価管理には、始めることで得られるメリットと、後回しにし続けることで生じるリスクの両面があります。まずは全体像を整理します。
原価管理のメリットと放置した場合のリスク
区分 | 内容 |
|---|---|
メリット① | 赤字工事を早期に発見し利益を確保できる |
メリット② | 損益分岐点を把握し値引き交渉に強くなる |
リスク① | どんぶり勘定のままだと赤字が慢性化する |
リスク② | 経営事項審査(経審)の点数が下がり、公共工事の入札で不利になる |
メリット①|赤字工事を早期に発見し利益を確保できる
工事の途中段階で予算と実績を突き合わせていれば、赤字に転びかけている工事を完成前に発見できます。追加の値引き交渉や工程の見直しなど、打てる手を残したまま対応できる点が最大のメリットです。完成してから赤字が判明する場合とは異なり、資材の発注方法を見直したり、施主に仕様変更を相談したりといった選択肢がまだ残っている段階で手を打てます。
メリット②|損益分岐点を把握し値引き交渉に強くなる
工事ごとの損益分岐点があらかじめわかっていれば、施主からの値引き要望に対しても「どこまでなら応じられるか」を数字で判断できます。感覚ではなく根拠を持って交渉できることは、営業面でも大きな強みになります。
リスク①|どんぶり勘定のままだと赤字が慢性化する
「今月も何となく赤字気味だった気がする」という感覚のまま工事を重ねると、どの工事が原因なのかを特定できず、同じ失敗を繰り返しやすくなります。1件の赤字工事に気づかないまま次の見積もりを立てると、同じ見積もりの甘さを引き継いでしまう点が最大のリスクです。
リスク②|経営事項審査の点数が下がり公共工事の入札で不利になる
公共工事を元請として受注するには、建設業者の経営状況を数値化する「経営事項審査(経審)」を受ける必要があります。経審の「経営状況(Y点)」は、次のような収益性・効率性の指標をもとに算出されます(出典:ANDPAD)。
- 総資本売上総利益率
- 売上高経常利益率
原価管理の精度が低く粗利率が実態より悪化していれば、経審の点数にも直接影響します。公共工事の受注を目指す工務店にとっては、原価管理の精度がそのまま入札での競争力に直結する点を押さえておく必要があります。
4. 建設業の原価管理を仕組み化する5つのステップ

ここからは、実際に原価管理を始めるための具体的な手順を解説します。特別なシステムがなくても、今日から着手できる内容です。
原価管理を仕組み化する5つのステップ
STEP | 内容 |
|---|---|
STEP1 | 工事ごとに実行予算を設定する |
STEP2 | 原価の発生をリアルタイムで記録する |
STEP3 | 予算と実績を定期的に突き合わせる |
STEP4 | 差異の原因を分析し是正する |
STEP5 | Excelの限界を感じたらシステム導入も検討する |
STEP1|工事ごとに実行予算を設定する
見積書をもとに、次の4費目に分けた「実行予算」を工事ごとに立てます。この実行予算が、以降のすべてのステップの基準点になります。
- 材料費の予算
- 労務費の予算
- 外注費の予算
- 経費の予算
STEP2|原価の発生をリアルタイムで記録する
発注書や請求書が届くたびに、どの工事のどの費目に該当するかをその場で記録します。月末にまとめて処理しようとすると記憶が薄れ、計上漏れが発生しやすくなるため、費用が発生した時点で記録する習慣が重要です。
- 発注時:発注書の金額を仮計上する
- 請求時:請求書の金額で実額に置き換える
- 支払時:支払い実績と請求内容の差異がないか確認する
STEP3|予算と実績を定期的に突き合わせる
実行予算と実際の原価を、少なくとも月に1回は突き合わせます。工期の長い工事では、完成してから突き合わせても手遅れになるため、進行中のタイミングで確認することが欠かせません。突き合わせの頻度は、工期が短い工事ほど週次に近い間隔で行うと、ズレに気づくタイミングを早められます。
STEP4|差異の原因を分析し是正する
予算と実績にズレが出た場合は、次の観点で原因を切り分けます。原因が特定できれば、残りの工程で挽回できる部分と、次の見積もりに反映すべき部分が明確になります。
- 見積もりの精度が甘かったのか
- 発注価格が想定より上がったのか
- 手戻り・追加工事が発生したのか
STEP5|Excelの限界を感じたらシステム導入も検討する
現場数が増えてくると、Excelでの管理は関数の崩れや入力ミスが起こりやすくなります。ANDPADや勘定奉行iクラウド[建設業編]、KANNAといった建設業向けの原価管理・施工管理システムを使えば、発注データの入力から予算実績の突合までを効率化できます。
Excel管理とシステム導入の違い
項目 | Excel管理 | 原価管理システム |
|---|---|---|
入力の手間 | 手入力・関数管理が必要 | 発注データを自動反映 |
ミスの起こりやすさ | 関数崩れ・入力ミスが起きやすい | 入力ルールが統一され起きにくい |
現場数が増えた場合 | 管理が煩雑になりやすい | 現場数が増えても対応しやすい |
どのシステムが自社に合うかの具体的な選び方は、別記事で詳しく解説予定です。まずは自社の現場数や課題に照らして、Excelで十分か、システム導入を検討すべき段階かを見極めることが第一歩になります。
5. 建設業の原価管理に関するよくある質問

よくある質問の一覧
質問 | 回答の要点 |
|---|---|
Q1. なぜ重視される? | 資材・労務費の高騰で見積もりとのズレが生じやすいため |
Q2. Excelで対応できる? | 現場数が少なければ可能。増えたらシステム導入を検討 |
Q3. 原価率の目安は? | 粗利率25%・原価率75%程度が一つの目安 |
Q4. 経審に関係する? | Y点の収益性指標に影響するため関係する |
Q1. 建設業で原価管理が重視されるのはなぜですか?
資材価格・労務費の高騰により、見積もり時点の想定と実際の発注価格にズレが生じやすくなっているためです。工事が完成してから赤字に気づくケースを防ぐには、工事の進行中に原価を追い続ける原価管理が欠かせません。
Q2. 原価管理はExcelだけで対応できますか?
現場数が少ないうちはExcelでも対応できます。ただし、現場数が増えるほど関数の崩れや入力ミスが発生しやすくなるため、その段階でシステム導入を検討するのが現実的です。
Q3. 建設業の原価率の目安はどれくらいですか?
一般財団法人建設業情報管理センターの「建設業の経営分析(令和3年度)」によれば、建設業の粗利率はおよそ25%、工事原価率はおよそ75%程度とされています(出典:建設ITNAVI)。ただし会社の規模や工事の種類によって差があるため、自社の実績と照らし合わせて確認することが大切です。
Q4. 原価管理は経営事項審査(経審)にも関係しますか?
関係します。経審の「経営状況(Y点)」は総資本売上総利益率・売上高経常利益率といった収益性の指標で算出されるため、原価管理の精度が低いまま粗利率が悪化すると、経審の点数にも影響します。公共工事の受注を目指す工務店ほど、原価管理の精度が入札の競争力に直結します。
6. まとめ|原価管理の精度を上げ、次の商談にもつなげる

建設業の原価管理は、次の3点に集約されます。
- 原価は材料費・労務費・外注費・経費の4費目で構成され、工事ごとに管理する
- 建設業特有の勘定科目や外注費・共通費の扱いが、原価管理を難しくしている
- 実行予算の設定から差異分析までの5ステップを回すことで、赤字工事を未然に防げる
どんぶり勘定から抜け出す一歩は、まず1つの工事で実行予算を立て、実績と突き合わせてみることです。小さく始めても、続けることで工事ごとの利益が見える経営に近づきます。
まどりLABO PROでは、施主のヒアリングから間取り生成・3D化・プレゼンボード出力までを初回商談の場で一気に行えるため、提案のスピードと精度を高めながら、見積もりの前提となる情報を早い段階でそろえられます。原価管理の土台づくりとあわせて、提案のスピードアップを検討したい方は、まどりLABO PROの詳細・ご導入について、ぜひお問い合わせください。
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まどりLABO編集部|代表 野口雄人

東大卒の設計士・一級建築士・エンジニアなどで構成。間取りが大好きなオタクたちの集団で、間取りが好きなあまり間取りをAIで自動生成できるサイトを作成しました。代表の野口は東京大学・東京大学大学院で建築学を専攻しました。