注文住宅の手付金とは？相場・タイミング・注意点をわかりやすく解説
家づくりの契約時に「手付金っていくら？どこに？なんのために？」と戸惑う人は少なくありません。契約直前になって初めて説明を受け、想定外の支出に焦るケースも。家づくりの大きな一歩だからこそ、しくみを理解して安心して臨みたいものです。
この記事を読むメリット
- 注文住宅における手付金の役割と意味がわかる
- 相場や支払いタイミングを具体的に理解できる
- 住宅ローンとの関係と、払えないときの対処法を整理できる
- 契約時の注意点や返金条件などトラブル防止のポイントを学べる
- 契約前に確認しておくべき項目をリスト化して準備できる
1. そもそも「手付金」とは？どんな目的で支払うお金？
注文住宅での手付金の役割と意味
家づくりの契約時に登場する「手付金」は、契約を正式に成立させるためのお金です。 手付金には、法律上、主に次の3つの役割（性質）があります。
- 証約手付（しょうやくてつけ） ：売主と買主の間で「契約が正式に成立したこと」を証明する役割です。 「この内容で契約します」という意思を金銭で示すことで、契約の証とします。
- 解約手付（かいやくてつけ）：契約の相手方が「履行に着手するまで」（※）の間、契約を解除できる権利を保証する役割です。
- 買主から解除する場合：支払った手付金を放棄する（返還を求めない）
- 売主から解除する場合：受け取った手付金の2倍を買主に支払う このルール（民法第557条）により、やむを得ない事情が生じたときに、双方合意がなくても契約を解除できるようになっています。
- 違約手付（いやくてつけ）：どちらか一方が契約違反（債務不履行）をした場合に、違約金（損害賠償）として没収される役割です。 例えば、買主が正当な理由なく中間金などを支払わなかった場合、手付金が違約金として没収される、といった取り決めが該当します。
（※）「履行に着手」とは、売主が資材を発注した、買主が中間金を支払ったなど、契約内容の実行に移った段階を指します。
自己資金の主な内訳は「預貯金」「有価証券の売却」「退職金」などが多く、こうした資金を手付金や中間金に充てるケースが一般的です。（出典：住宅金融支援機構「令和6年度 住宅市場動向調査報告書」）
内金・申込金・中間金・頭金との違い
「手付金」と似た言葉に、「申込金」「内金」「中間金」「頭金」があります。どれもお金を支払うタイミングに関係しますが、目的や返金ルールが大きく異なります。違いを整理すると次のとおりです。
【頭金とは】
まず、「頭金」は他の4つとは性質が異なります。
頭金とは、物件の購入代金のうち、住宅ローンなどの借入金を使わずに支払う「自己資金」の総称です。
たとえば3,000万円の家を建てる場合、500万円を自己資金で、2,500万円をローンで支払うとします。この500万円が「頭金」にあたり、契約時に支払う手付金や、工事途中で支払う中間金も、この頭金の一部として充当されます。
【手付金・申込金・内金・中間金の違い】
名称 | 支払う タイミング | 支払う相手 | 主な目的 | 返金の可否 |
|---|---|---|---|---|
申込金 (申込証拠金) | 契約前 (購入や建築の仮申込み時) | 不動産会社 ハウスメーカー | 購入や契約の意思を示す (交渉の優先権確保) | 契約が成立しなかった場合は原則全額返金される |
手付金 | 契約締結時 | 売主 工務店 | 契約成立の証 解約権の担保（解約手付） | 原則返金不可 (ただし手付放棄・倍返し・住宅ローン特約による解除を除く) |
内金 | 契約後〜引き渡し前の途中段階 | 売主 工務店 | 代金の一部としての前払い | 返金不可 (最終的に代金に充当) |
中間金 | 工事の進捗途中 (例：上棟時など) | 工務店 ハウスメーカー | 工事進捗に応じた支払い (代金の一部前払い) | 返金不可 (最終的に代金に充当) |
（※1）解約権の担保：買主は「手付金を放棄する」、売主は「手付金の倍額を返す」ことで、相手が履行に着手する前であれば契約を解除できます（民法557条）。
（※2）住宅ローン特約：ローン審査が通らなかった場合、契約を白紙にして手付金が返金される特約のことです。
【ポイントの整理】
支払いのタイミングで整理すると、次のようになります。
支払いのタイミング | 名称 | 目的・特徴 | 返金の可否 |
|---|---|---|---|
契約「前」 | 申込金 | 契約の意思を示すお金。契約に至らなければ返金される。 | 原則返金される |
契約「時」 | 手付金 | 契約の成立を証し、解除の担保にもなるお金。 | 原則返金不可（特約を除く） |
契約「後」 | 内金・中間金 | 代金の一部を前払いするお金。工事の進捗に応じて支払う。 | 返金不可（最終的に代金に充当） |
そして、「頭金」はこれらの支払い（特に手付金や中間金）に充てる「自己資金」そのものを指します。
名称が似ているため混同しやすいですが、特に「申込金」と「手付金」は返金ルールが全く異なるため、契約書や説明書面でどちらの支払いなのかを必ず確認しておくことが大切です。
2. 注文住宅の手付金の相場と支払いタイミング
金額の目安（建築価格の5〜20％が一般的）
注文住宅の建築請負契約で支払う手付金（契約金）は、法律で上限が定められていません。ただし、実務上は建築価格の5〜20％程度に設定されることが多いです。
金額はハウスメーカーや契約条件によって異なりますが、以下が一般的な目安です。
建築価格 | 手付金の目安（5〜20％） |
|---|---|
2,000万円 | 約100〜400万円 |
3,000万円 | 約150〜600万円 |
4,000万円 | 約200〜800万円 |
多くの場合、契約時に現金または銀行振込で支払うのが一般的です。
クレジットカード払いはできない場合がほとんどのため、事前に資金を確保しておく必要があります。
手付金は、最終的に建築代金の一部として充当されます。
また、土地契約と建築契約を別々に行う場合、それぞれに手付金が発生する点にも注意が必要です。
【補足】土地契約との違い
注文住宅（建築請負契約）：法律で手付金の上限は定められていません。
土地の売買契約：宅地建物取引業法により、宅建業者が売主となる場合、手付金は売買代金の20％を超えてはならないとされています。（出典：宅地建物取引業法 第39条）
なお、国土交通省の「令和6年度 住宅市場動向調査」によると、注文住宅の建築資金（※土地代除く）の全国平均は約4,695万円、自己資金比率は約39％です。三大都市圏では平均5,243万円・自己資金比率41％と報告されています。
こうした統計からも、契約時にまとまった現金を用意しておく世帯が多いことがわかります。
支払いの流れ（契約締結時〜ローン実行まで）
注文住宅では、土地契約と建築契約を別々に結ぶケースが多く、それぞれの段階で手付金や中間金などの支払いが発生します。
契約の種類 | 手付金を支払う時期 | 支払い相手 | 内容 |
|---|---|---|---|
土地契約 （売買契約） | 土地購入時 | 売主 （不動産会社など） | 土地代金の一部として支払う （上限20％） |
建築契約 （工事請負 契約） | 建物の設計 施工契約時 | 工務店 ハウスメーカー | 建築代金の一部として支払う （上限なし） |
住宅ローンは、建物が完成して引き渡されてから実行されるのが一般的です。そのため、手付金や着工金などの初期費用は自己資金で支払う必要があります。
支払い全体の流れは次のようになります。
- 仮申込み（申込金）
- 契約締結（手付金）
- 着工時（着工金）
- 上棟時（中間金）
- 引き渡し（最終金・ローン実行）
これらの支払い時期を把握し、「いつ・いくら現金が必要か」を明確にしておくことが、安心して家づくりを進めるための第一歩です。
3. 手付金は住宅ローンに組み込める？払えないときの対処法
注文住宅取得世帯のうち約73.6％が住宅ローンを利用していることも示されています。多くの家庭では、資金計画を立てるうえでローン前提の設計が一般的といえます。（ 住宅金融支援機構「令和6年度 住宅市場動向調査報告書」）
住宅ローン実行のタイミングと「つなぎ融資」
注文住宅の手付金は、住宅ローンには基本的に組み込めません。ローンの資金は「建物が完成して引き渡された後」に実行されるため、契約時点ではまだ使えないからです。
そのため、契約金や着工金など、ローン実行前の費用は一時的に自己資金で支払う必要があります。
ここで利用されるのが「つなぎ融資」です。つなぎ融資とは、住宅ローンが実行されるまでの間、必要な資金を一時的に借りるローンのことです。土地の手付金や建築請負契約金、着工金などをカバーできます。
項目 | 内容 |
|---|---|
利用目的 | ローン実行前の支払いに充てる |
返済方法 | 住宅ローン実行後に一括返済 |
金利 | 年2〜4％前後とやや高め |
つなぎ融資を使えば、手持ち資金が少なくても契約を進められます。
ただし、利息や手数料がかかるため、必要な分だけ短期間利用するのが安心です。
手付金が用意できないときの選択肢
手付金をすぐに用意できない場合でも、いくつか方法があります。無理に高金利のローンを組む前に、次のような選択肢を検討してみましょう。
方法 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
親族から借りる 家族に一時的に借入 | 利息が不要な場合が多い | 返済計画を口約束にしない |
減額交渉する 工務店 / HMに相談 | 自己資金を減らせる可能性 | 必ず応じてもらえるとは限らない |
社内融資を利用する 勤務先の制度を活用 | 低金利・返済が柔軟 | 上限額の確認が必要 |
つなぎ融資を使う 銀行 / ローン会社で借入 | 資金をすぐ確保できる | 金利・手数料の負担あり |
特に、早めに相談することが何より大切です。契約直前で慌てると選択肢が限られてしまいます。「いつ・いくら必要になるのか」を早めに把握し、現実的な資金計画を立てておくと安心です。
4. 契約後のトラブルを防ぐために知っておきたい注意点
契約解除や返金の条件を確認する（民法557条）
「手付解除」の根拠は民法557条に定めがあります。条文はe-Gov法令検索で確認できます。
手付金を支払ったあとに「やっぱり契約をやめたい」と思った場合、どうなるのか。
このときのルールは民法557条などで定められています。主なパターンを整理すると次のとおりです。
種類 | 解除できる人 | 解除の条件 | 結果（お金の動き） |
|---|---|---|---|
手付解除 | 買主 または 売主 | 相手方が「契約の履行に着手」するまで（※1） | 買主：支払った手付金を放棄売主：受け取った手付金の2倍を買主に支払う |
白紙解約（特約による解除） | 主に 買主 | 契約書に記載された特約（例：住宅ローン特約）が適用される場合 | ペナルティなし。手付金は全額返金される |
違約解約（契約違反による解除） | 契約違反 をされた側 | 相手が契約違反（債務不履行）をした場合（※2） | 違反した側が、契約書で定めた違約金や損害賠償を支払う |
（※1）「履行の着手」とは、売主が工事準備や資材発注を始める、買主が中間金を支払うなど、契約の履行に向けた行動を取ることを指します。
（※2）例えば、買主が支払いを遅延したり、売主が正当な理由なく着工を怠った場合などが該当します。
手付解除は、上記（※1）のとおり相手が契約の履行に着手する前までしか使えないのが原則です。また、住宅ローンを利用する場合は「住宅ローン特約」が付いているかを必ず確認しましょう。もし審査が通らなければ、契約を白紙に戻して手付金が全額返金されるケースがあります。
契約解除の条件はすべて契約書に明記されています。署名する前に、「どのタイミングまでキャンセルできるのか」「返金の有無」を確認しておくことが、トラブルを防ぐいちばんの近道です。
支払い方法と領収書の扱いにも注意
手付金の支払い方にも、小さな注意点があります。
特に次の3つは意識しておくと安心です。
- 現金より銀行振込がおすすめ
振込記録が残るため、後から支払いを証明できます。現金の場合は領収書を必ず受け取りましょう。
- 領収書や明細を契約書と一緒に保管する
日付・金額・相手名がわかる書類を残しておくと、万一のときに役立ちます。
- カードローンやキャッシングは避ける
金利が高く、返済が長引く原因になります。
お金のやり取りは信頼関係のうえに成り立ちますが、記録を残すことが最大の安心材料です。
支払いの証拠と契約内容、この2つをきちんと残しておくことで、後悔のない契約につながります。
5. まとめ｜手付金の意味を正しく理解し、安心して契約を結びましょう
手付金は、契約を正式に成立させるために支払う、非常に大切なお金です。これには主に、以下の3つの法的な役割があります。
- 契約成立の証（証約手付）
契約が確かに結ばれたことを証明します。
- 解約権の担保（解約手付）
万が一の際、買主は「手付金を放棄」、売主は「手付金の倍額を返金」することで、相手が履行に着手するまで契約を解除できる権利を確保します。
- 違約金の担保（違約手付）
一方が契約違反をした際、違約金として扱われる役割です。
もちろん、支払った手付金は、最終的に建築代金の一部として充当されます。
契約で後悔しないために、署名・捺印の前に次の3点を必ず確認しておきましょう。
- 手付金の金額と支払い時期
- 返金・解除条件（特に「手付解除」の期限と「住宅ローン特約」の有無）
- 支払い方法（振込推奨）と領収書（振込明細）の保管
注文住宅の場合、手付金の目安は建築費の5〜20％です。 住宅ローンは「建物の引き渡し時」に実行されるため、手付金は自己資金で準備する必要があります。
もし自己資金が不足する場合は、「つなぎ融資」や親族からの借入といった選択肢もありますが、金利負担や返済計画も発生するため、早めにハウスメーカーや金融機関に相談することが大切です。
正しい知識と準備があれば、手付金は決して不安なものではありません。 仕組みを理解し、納得のいく形で契約を進めていきましょう。
まどりLABO編集部｜代表 野口雄人
東大卒の設計士・一級建築士・エンジニアなどで構成。間取りが大好きなオタクたちの集団で、間取りが好きなあまり間取りをAIで自動生成できるサイトを作成しました。代表の野口は東京大学・東京大学大学院で建築学を専攻しました。